インフルエンサー/KOL
アテンションが直接お金になる時代のKOL起用|成果連動報酬への移行と2026年の実務対応
アテンションが決済レイヤーで直接収益化される仕組みが広がる一方、投稿量に報酬を払うモデルは2026年1月に崩壊しました。Hyperliquidのビルダーコードや成果連動報酬の実例、日本のステマ規制・金商法改正を踏まえ、海外KOL起用の選定基準と契約設計をどう変えるべきかを整理します。

「フォロワー100万人のインフルエンサーに依頼したのに、売上が動かなかった」。海外案件の報告を受けて、こう感じたことはないでしょうか。
原因はKOL選びの目利き不足だけではありません。「アテンションの量」で人を選び、「定額フィー」で払うという前提そのものが、2026年に入って大きく揺らいでいます。
背景にあるのは、アテンションが決済レイヤーで直接お金に変わる仕組みの普及と、それを悪用したスパムへの一斉規制です。この2つの変化から、KOL起用の設計をどう見直すべきかを整理します。
この記事でわかること
アテンションが手数料として自動的に分配される仕組みと、その実際の金額規模
「投稿量に報酬を払うモデル」が2026年1月に崩壊した経緯と教訓
検証済みの成果でKOLを選ぶ4つの実例と、日本企業が使える契約設計
日本のステマ規制・金商法改正のもとで注意すべき実務上の論点
アテンションが「手数料」として自動で分配される時代
起きている変化を、具体的な仕組みから見ていきます。象徴的なのがHyperliquidの「ビルダーコード」です。
これは自社アプリ経由で流れた取引に対して、第三者の開発者が手数料を直接受け取れる仕組みです。上限はパーペチュアル取引で0.1%、スポット取引で1%(売り側のみ)と定められています。
重要なのは、手数料が全額アプリ側に入り、プロトコル側には入らない設計であること。ユーザーは最大10件のビルダー承認を同時に保持できます。(出典:Hyperliquid公式のビルダーコード仕様)
登録ビルダー数:1,598件(Dune公開ダッシュボード実測)
累計収益トップ:Phantomが約40億円(2,520万ドル)
2位・3位:Basedが約25億円(1,540万ドル)、MetaMaskが約16億円(980万ドル)
(出典:Dune公開ダッシュボード「Hyperliquid BuilderCodes」実測値)
2026年8月21日には、ビルダーコード経由の日次想定元本取引高が約1,583億円(9億8,940万ドル)と過去最高を記録。同日のビルダー収益は約1.25億円(78万1,600ドル)でした。(出典:ビルダーコードの日次公開データ、2026年8月21日)
Hyperliquid日次アクティブユーザーの約40%が第三者フロントエンド経由で取引しています。流通チャネルが完全に外部化しているということです。
「発信者への分配」はいくら動いているのか
分配が起きているのは取引アプリだけではありません。トークン発行プラットフォームのPump.funは、発行者本人への手数料分配を制度化しています。
公式ドキュメントによれば、ボンディングカーブ上では発行者に0.300%、プロトコルに0.95%が配分されます。二次取引では時価総額に応じ0.300%から0.050%へ逓減します。(出典:Pump.fun公式の手数料ドキュメント)
累計の支払額については、出典によって開きがあります。数字を扱う際は幅として認識しておくべき部分です。
約720億円超(4億5,000万ドル超):Syncracy Capital共同創業者Ryan Watkinsの2026年8月31日投稿
約560億円超(3億5,000万ドル超):Blockworksデータに基づく2026年6月時点の報道(過去1年分)
プラットフォーム側の累計手数料は2026年4月時点で約1,120億円超(7億ドル超)。ライブ配信を伴うローンチは、非配信ローンチ比で出来高が約2.3倍という数字も報告されています。
ここで押さえたいのは金額の大きさではありません。誰の発信がどれだけの経済活動を生んだかが、決済のたびに自動記録されるという構造です。
2026年1月、「投稿量への報酬」は一度崩壊した
一方、同じ「アテンションの換金」でも失敗が確定したモデルがあります。日本企業が最も学ぶべきはこちらです。
2026年1月15日、X(旧Twitter)のプロダクト責任者Nikita Bierが、投稿に金銭的報酬を与えるすべてのアプリのAPIアクセスを恒久的に剥奪すると発表しました。
理由は明快で、このモデルが大量のAIスロップとリプライスパムを生んだことです。直前の1月9日には、クリプト関連投稿が1日775万件(1,224%増)まで急増していました。
影響は即座に数字へ出ました。
対象サービス:Kaito、Cookie DAO、Xeet、BubbleMaps、Loud、Arbusなど
トークン下落:KAITOが17%安、COOKIEが15%安
セクター全体:数時間で時価総額が約64億円(4,000万ドル)減少し、11.5%縮小して約587億円(3億6,700万ドル)へ
教訓は一つです。投稿量・エンゲージメント量に報酬を紐づけると、必ず量の水増しが起き、プラットフォーム側に止められる。KPIをインプレッションに置く発想の危うさが、実証されたかたちです。
代わりに何が置かれたか:成果連動と実績検証の4層
崩壊後、業界が置き換えに動いた先が示唆的です。Kaitoは投稿量連動をやめ、2026年2〜3月に「Kaito Studio」へ転換しました。
ブランドパートナー16社でスタート。審査を通ったクリエイターが応募して報酬を見積提示し、ブランドが選定して直接支払う三者間マーケットプレイス型です。
さらに2026年7月29日には成果連動レイヤー「Katalyst」を発表。定額報酬や生のエンゲージメントではなく、クリック・サインアップ・入金・アクティビティといった検証済みの成果に対して支払う設計です。
「自己申告のスクリーンショット」ではなく、決済レイヤー自体が成果を記録する構造が、いま同時に4層で成立しています。
アプリ内検証:OKX「Orbit」は取引履歴からPnL・勝率をリアルタイム算出して表示
成果連動報酬:Kaito Katalystはクリック・入金をゼロ知識証明で検証
完全なアトリビューション:Hyperliquidはビルダーアドレスごとに日次CSVを公開
第三者検証:Duneのダッシュボードで手数料率・取引高・収益を誰でも照合可能
(出典:OKX、Kaito、Hyperliquid、Duneの各公開仕様)
OKXマネージングパートナーのHaider Rafiqueは、Orbitの狙いをスクリーンショットや選択的開示に頼る信頼ギャップの解消だと説明しています。
この変化は本流のインフルエンサー市場にも来ている
「クリプトの話でしょう」と片付けるのは早計です。従来型のインフルエンサーマーケティングでも、報酬体系の主流はすでに成果連動へ動いています。
定額フィーだけで完結する契約は減り、成果に連動する部分を組み込んだ契約が実務の標準になりつつあります。
よく使われるのが、ベースフィー+売上コミッション+段階ボーナスのハイブリッド型です。前払いを抑え、成果が出たときに厚く払う設計にします。
市場そのものは縮んでいません。むしろ資金は増え続けています。
世界市場:2025年に約5兆2,080億円(325億5,000万ドル)。2022年の約2兆6,240億円(164億ドル)からほぼ倍増(Statista)
米国のクリエイター広告支出:2026年に約7兆400億円(440億ドル)へ。2025年は約5兆9,200億円(370億ドル)で前年比26%増(IAB/Advertiser Perceptions)
買い手の姿勢:クリエイター広告の出稿者の48%が「必須の出稿先」と位置づけ(同)
予算の増加意向も明確です。回答者600名超の調査で、87.49%が予算増を見込み、うち72.22%が「50%以上の増加」を予想しました。(出典:Influencer Marketing Hub『Influencer Marketing Benchmark Report 2026』)
国内市場も伸びています。ソーシャルメディアマーケティング市場は2024年に1兆2,038億円、2029年には2兆1,313億円と予測されました。(出典:サイバー・バズ/デジタルインファクトの共同調査、2024年5〜10月実施)
日本企業がいま押さえるべき規制の論点
成果連動へ切り替える際、日本企業には固有の注意点があります。特に金融・投資領域のKOL起用は法規制の変化が速い分野です。
まず国内。暗号資産を資金決済法から金融商品取引法へ移す改正法が、2026年7月15日に成立し、同月23日に公布されました(令和8年法律第64号)。
位置づけ:有価証券とは区別された「金融商品」として整理
罰則強化:無登録業の罰則が拘禁刑3年から10年へ引上げ
新規制:情報公表規制とインサイダー取引規制の新設
本体の施行日は政令待ちで、言えるのは遅くとも2027年7月22日までという範囲です。既存業者には施行日から6か月の経過措置が置かれます。
制度の全体像は日本の暗号資産規制はこう変わったで整理しました。
ステマ規制も外せません。2023年10月1日施行の消費者庁告示により、事業者が表示内容の決定に関与した第三者投稿は「事業者の表示」に当たり、明瞭な広告表示が必須です。
「#協力」「#コラボ」といった曖昧な表現では不十分と判断されうる点も、海外KOLへの発注書に落とし込む必要があります。(出典:消費者庁告示、2023年10月1日施行)
金融庁の2025年12月1日付監督方針では、暗号資産関連の広告・勧誘について「インフルエンサー等第三者を通じた勧誘の監視」が重点項目に挙げられています。
海外側の動きも同期しています。ASIC(豪)は2026年、17当局と連携した取締りを継続し、フィンフルエンサー4名に警告通知を発出しました。
ASICコミッショナーAlan Kirklandは「違法なフィンフルエンサー活動は国境を尊重しない」と述べています。日本企業が海外KOLを起用する場合も、現地当局の執行対象になりうるという前提が必要です。(出典:ASICの公表内容)
図:選定・報酬・開示——変えるべき3か所
実務への落とし込み:3つの設計変更
ここまでを、明日から動かせる形に整理します。大がかりな体制変更は不要で、契約と選定の設計を変えるだけです。
選定基準を「量」から「検証可能な成果」へ:フォロワー数ではなく、過去案件の計測可能なコンバージョン実績を提出させる
報酬をハイブリッドへ:ベースフィーを抑え、成果コミッションと段階ボーナスを乗せる。前払い比率を下げるほど、量の水増しは起きにくくなる
開示要件を発注書に明記:日本のステマ規制と現地規制の両方を満たす表記を、契約段階で指定する
3つに共通するのは、一次データで裏が取れる指標だけをKPIに置くという発想です。規制対応であると同時に、社内で予算を通すための実務でもあります。
まとめ
アテンションが直接お金になる時代とは、「誰の発信がいくら生んだか」が決済のたびに記録される時代のことです。曖昧なリーチ報告が通用しにくくなります。
2026年に起きたことを3行で整理します。
投稿量への報酬は崩壊した:Xが2026年1月にAPIを遮断し、セクター時価総額は11.5%縮小
置き換わったのは成果連動:クリック・入金・取引といった検証済み行動への支払いへ
本流市場も同じ方向:定額フィー一本の契約が減り、成果連動を組み込んだ契約が標準に
日本企業に必要なのは、海外の新しい仕組みを丸ごと導入することではありません。選定基準と報酬設計を、測れるものに寄せていくことです。
そのうえで、ステマ規制と金商法改正という国内の枠組みを発注書に反映させる。この2つが揃えば、海外KOL施策は説明可能な投資になります。
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