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マーケティング業務のどこまでAIに任せるか|工程別・AIと人の線引き実務ガイド
AIツールを入れても成果を説明できないのは、業務のどこを任せるかの線引きがないからです。広告運用やクリエイティブ量産など成果が実証された領域と、ブランド判断や一次情報など人が握るべき領域を、検証コスト・回復可能性・文脈の所在の3基準で工程ごとに切り分け、海外向けで線引きが手前に来る理由まで解説します。

「マーケティング業務にAIを入れろ」と言われ、とりあえずツールの比較表を作った。生成AIで記事の下書きも試した。それでも、どの業務がどれだけ変わったのかを説明できない——そこで止まっている企業は少なくありません。
問題はツールの選定ではなく、業務のどこを任せるかという線引きが決まっていないことにあります。
マーケティングは市場調査からコンテンツ制作、クリエイティブ、広告運用、顧客対応、意思決定まで工程が長く、工程ごとにAIの得意・不得意はまったく違います。それを「マーケにAIを入れる」と一括りで議論するから、成果の測りようがなくなります。
この記事では、業務を工程に分け、AIに任せて実際に成果が出ている領域と、人が担わないと壊れる領域を、公開されている実測データで切り分けます。ツールの羅列ではなく、業務設計の話として整理します。
この記事でわかること
AIに任せて成果が出ている領域と、人が担わないと壊れる領域の線引き
どこまで任せるかを決める3つの判断基準(検証コスト・回復可能性・文脈の所在)
広告運用・クリエイティブ制作・顧客対応それぞれで確認されている実測データ
海外向けマーケティングで線引きが国内より手前に来る理由と、開示ルールの実務
なぜ「AIツール選び」から入ると成果につながらないのか
導入率と成果はまったく別の指標だからです。日本企業のうち自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合は86.4%でした。
ただし業務類型別に見ると、「マーケティング・広報」で何らかの形で活用しているのは49.4%。その内訳は次のとおりです。
業務プロセスがAI中心:7.4%
部署内の特定業務:23.9%
従業員個人の効率化:18.1%
未導入:27.6%
最も高いのは「議事録・メール作成補助」の71.2%でした。業務プロセスそのものをAI中心に組み替えている企業は1割に届いていません。(出典:総務省「情報通信白書」企業向けアンケート調査。2026年1〜2月実施、日本の有効回答515社)
国内の別調査でも、生成AIを活用する企業の懸念は上位3つが次の内容でした。
情報の正確性:50.4%
専門人材不足:41.3%
活用範囲の不明確さ:40.0%
効果を実感している企業は86.7%あるのに、範囲が決まらない。(出典:国内企業を対象とした生成AI活用の動向調査。2026年3月17〜31日実施、23,349社対象・有効回答10,312社)
これは世界共通の停滞点です。105か国1,993名の調査では88%が少なくとも1つの業務機能でAIを定常利用(前年78%)と答えた一方、EBITへの影響をAIに帰属できるとしたのは39%、そのほとんどが「5%未満」。
売上増が最も多く報告される領域はマーケティング&セールスです。伸びしろが最大の領域なのに利益貢献を説明できていないのは、欠けているのがツールではなく工程の切り分けだからです。(出典:AI活用状況に関するグローバル調査。105か国・1,993名回答、2025年6月25日〜7月29日実施)
AIに任せる範囲を決める3つの判断基準
基準は「出力の正しさを人が安く検証できるか」「間違えたときに取り返しがつくか」「判断に必要な文脈が社内にあるか」の3つです。この順で仕分けると、任せる範囲は業務単位ではなく工程単位で決まります。
検証コスト:出力の正しさを数分で確認できる工程か。確認に元の作業と同じ時間がかかるなら総工数は減りません
回復可能性:間違いが公開前に止まる工程か。広告表現やプレスリリースなど公開後に発覚する領域は必ず人の承認を挟みます
文脈の所在:判断材料が社内・現地・顧客の頭の中にしかないなら、AIの担当範囲は下書きまでです
この見極めが必要な理由は、AIの効き方が一様ではないからです。
知識労働者758名を対象とした事前登録型のフィールド実験では、AIの能力の「フロンティア内」にある18の現実的タスクで、GPT-4利用者が完了タスク数12.2%増、25.1%速く、品質も有意に向上しました。
一方、フロンティア外に設計された複雑な経営タスクでは、正答を出す確率が非利用者より19%低くなりました。タスクの見極めそのものが人間の仕事だということです。(出典:BCGとの共同による事前登録型フィールド実験。知識労働者758名が対象)
先進企業もこの設計を明言しています。中外製薬はAI活用にあたり「人間の判断や確認を適切に介在させる『ヒューマン・イン・ザ・ループ』の考え方に基づくAIガバナンス」を重視していると回答しています。
白書も先進企業の示唆として、人間とAIの役割分担の設計を重視する姿勢を挙げています。(出典:総務省「情報通信白書」ヒアリング調査)
AIに任せて成果が出ている4領域
実測データで成果が確認できているのは、次の4つです。いずれも成果が数値で判定でき、間違えても公開前に止まる工程にあたります。
広告運用の最適化
クリエイティブ素材の量産
定型の顧客対応
社内向けの資料作成
広告運用は最も任せやすい工程です。Googleの入札AIの新機能「Smart Bidding Exploration」は、柔軟なROAS目標により通常は入札しない検索クエリまで探索する仕組みです。
利用キャンペーンは平均で、コンバージョンが発生するユニークな検索クエリカテゴリが18%増、コンバージョンが19%増でした。(出典:Googleの発表。Google内部データ、グローバル、2025年3月11日〜4月11日)
Metaは「ほぼすべての広告主がMeta Advantage+製品を1つ以上利用している」とし、AI搭載のAdvantage+製品に160円(1ドル)使うと平均約723円(4.52ドル)の売上を生み、通常運用のキャンペーン比で22%高いと公表しています。
製品別の数値は次のとおりです。
Advantage+セールスキャンペーン:CPA平均9%減
Advantage+オーディエンス:ウェブサイトCVあたりコスト7%減
Advantage+キャンペーン予算:CPA平均4.6%減
細かな入札調整や手動ターゲティングは、人が担う価値が急速に薄れています。(出典:Metaの公表値)
クリエイティブも「量産」部分は成果が明確です。UnileverはNVIDIA Omniverseで製品のデジタルツインを作成し、製品画像を2倍速・50%安価に制作、ブランド一貫性100%を実現しました。
公表されている内訳は次のとおりです。
TRESemméタイランド:コンテンツ制作コスト87%削減・購入意向5%向上
Beauty & Wellbeing部門全体:最大55%のコスト削減と65%の制作期間短縮、CTRは2倍、注視時間は3倍
Metaでも背景画像生成を使ったキャンペーンは、未使用比で平均11%高いCTRを記録しています。(出典:Unileverの公表値/Metaの公表値)
定型の顧客対応も任せられます。KlarnaのAIアシスタントは稼働1か月で230万件の会話を処理し、これはカスタマーサービスチャットの3分の2、フルタイム相談員700人分に相当します。
解決時間は11分から2分未満に短縮、再問い合わせは25%減。23市場・35言語以上で24時間稼働し、2024年の利益改善効果は約64億円(4,000万ドル)と見込むと発表しました。(出典:Klarnaの発表)
社内向けの資料作成はすでに標準作業です。広告・マーケティング関連従事者468名のうち、業務で生成AIを「活用している」は90.8%、約6割が毎日利用しています。
利用目的の1位は「提案資料作成の効率化」373件(全回答者の約8割)でした。
世界のマーケター1,500名超の調査でも86.4%が一部業務でAIを利用しています。時間削減の内訳は次のとおりです。
約33%:「週15時間以上」
約33%:「週10〜14時間」
(出典:広告・マーケティング関連従事者468名を対象とした調査、2025年8月6日〜31日実施/世界1,500名超のB2B・B2Cマーケターを対象とした調査)
人が担わないと壊れる4領域
逆に、AIに丸投げすると成果が落ちるか事故につながるのは次の4つです。正解が数値で即判定できないか、間違いが公開後に発覚する工程だという共通点があります。
ブランド表現の最終判断
例外・高価値の顧客対応
一次情報の取得
企画の差別化
ブランド表現では、AIの「使い方」が成果を分けます。KantarとAffectiva(iMotions)が自社LINKデータベースの生成AI活用広告数百本を分析しました。
結果は、生成AIの使用が視聴者に気づかれない「シームレスな使い方」の広告は40%超がブランド想起の最上位ティアに入った一方、AI使用が明白な違和感のあるビジュアルは成績が悪化。
表情解析では、生成AI広告は非AI広告より強い感情反応を引き起こすものの、ネットの好意度は低いという結果でした。感情は動くが、良い方向とは限らないのです。(出典:KantarとAffectiva(iMotions)による自社LINKデータベースの生成AI活用広告分析)
Coca-Colaは2024年に続き2025年もクリスマス広告「Holidays Are Coming」を生成AIで制作し、SNSで「魂がない」といった批判と不買を求める声が拡散しました。
一方で同社のグローバルVPは、批判はあるが同社の歴史上トップクラスにテスト結果の良い広告だとしてAI活用の継続を明言しています。
この判断は数値だけでは下せません。どこまでの反発を引き受けるかという意思決定であり、人が担う領域の典型です。(出典:Marketing Diveの取材に対する同社グローバルVP(クリエイティブ戦略・コンテンツ)のコメント)
顧客対応は定型と例外で線を引きます。前述のKlarnaは2025年5月、CEOが人員削減は行き過ぎたと認め「コストに注力しすぎた。結果として品質が下がった」と述べ、人間の担当者の採用を再開しました。
現在はAIが定型・大量の問い合わせを、人間がエスカレーションと複雑・高価値対応を担うハイブリッド体制です。成功事例と揺り戻しが同じ会社で起きている点が、線引き設計の教材になります。(出典:Bloombergに対するKlarna CEOのコメント、2025年5月)
企画の差別化も人の仕事です。生成AIのアイデア提供を受けた短編小説は「より創造的・より良く書けている」と評価され、特に創造性の低い書き手ほど効果が大きいという結果が出ています。
一方でAI支援を受けたストーリー同士は人間だけで書いたものより互いに似通っており、個人の創造性は上がるが集合的な新規性は失われる「社会的ジレンマ」が生じると結論づけられています。
同じツールに似た指示を出せば、競合と似た企画が出る。差別化の起点は自社の一次情報に置くしかありません。(出典:生成AIのアイデア提供が短編小説の創造性に与える影響を検証した研究)
図:AIに任せて成果が出ている領域と、人が担わないと壊れる領域
海外向けマーケティングでは、線引きが国内より手前に来る
海外向けの施策では、AIに任せてよい範囲は国内より狭くなります。言語・文化的価値観・市場文脈の3つが、いずれもAIの弱点に重なるからです。
まず価値観です。GPT-4o/4-turbo/4/3.5-turbo/3の5モデルを107の国・地域の全国代表サンプル調査と比較したところ、すべてのモデルが英語圏およびプロテスタント系欧州諸国に近い文化的価値観を示しました。
プロンプトに文化的アイデンティティを明示する「cultural prompting」を行うと、新しめのモデルでは71〜81%の国・地域で文化的整合性が改善しています。
何も指定しなければ出力は欧米寄りに振れます。
(出典:GPT-4o/4-turbo/4/3.5-turbo/3の5モデルを107の国・地域の全国代表サンプル調査(World Values Survey等)と比較した研究)
言語対応の重みも変わりません。29か国8,709人の消費者調査の結果は次のとおりです。
76%が「自分の言語で情報が書かれた製品を買いたい」と回答
40%は「他言語のサイトからは決して買わない」と回答
AI翻訳で下がったのは初稿までのコストであり、現地で通じるかの判断は別工程です。(出典:29か国8,709人を対象としたオンライン消費者調査)
横展開にも実証データがあります。米国で高効果と判定された広告のうち、約35%はカナダ市場では効果が減衰し、65%しか効果的に移転しませんでした。
要因は次の6つです。
ブランドエクイティ
カテゴリー経験
クラッター
慣れている広告表現
文化差
消費者の自己同一化
英語圏どうしの隣接市場ですら単純横展開は成立しないという事実は、日本発の素材を翻訳して流すだけの運用の危うさを示します。(出典:米国とカナダにおける広告効果の移転を比較した分析)
実務では、翻訳と一次ドラフト、SNS投稿案の量産まではAI、現地で受け入れられるかの判断と最終稿は現地の人材、という切り方が現実的です。
海外向けのインフルエンサー(KOL)施策でも、候補リストアップや過去投稿の一次スクリーニングはAIで大量処理できますが、ブランドと合うかの判断は現地の文脈を知る人間の工程になります。
開示とガバナンスは「あとで考える」では間に合わない
AI活用の業務設計には、開示ルールと事故防止の工程が最初から含まれている必要があります。規制と消費者の受け止めが同時に動いているためです。
事故はすでに起きています。米広告業界エグゼクティブ125名の調査では、70%超が広告業務でAI関連インシデント(ハルシネーション、バイアス、ブランドから逸脱した出力など)を経験していました。
その帰結は次のとおりです。
広告の停止・取り下げ:41%
ブランド毀損・PR問題:37%
社内監査・エスカレーション:30%
影響が軽微だった:6%のみ
それでいてAIガバナンスへの投資を今後12か月で増やす予定は35%未満、「発売前に問題を捕捉できる」と自信を示したのは約90%と、実際の被害率との乖離が指摘されています。(出典:米広告業界エグゼクティブ125名を対象とした調査)
消費者側も無視できません。AI生成広告を「気にさわる」と答えた消費者は44%で前年の41%から上昇しました。
日本の生活者調査でも、生成AIを活用した広告に「抵抗感がある」は約37%、「抵抗感がない」は約22%でした。
ただし開示の効果には次の差が出ています。
33.8%:「生成AIで作成されたことを明記されると抵抗感が薄れる/安心感が増す」
29.1%:「明記されても抵抗感は薄れない」
開示が受容度を高める可能性が示されています。
(出典:世界30市場・消費者21,000人超と上級マーケター約1,000人を対象とした調査/日本の生活者調査、2025年2月18〜21日実施、全国15〜69歳・有効回収3,840サンプル)
制度も動いています。EU AI Act第50条の透明性義務は2026年8月2日から適用されます。
生成AIの提供者は出力を機械可読な形式でマーキングする義務を、ディープフェイクを利用する導入者は「遅くとも最初の露出時点で」人工的に生成・改変された旨を開示する義務を負います。
Googleも2026年7月9日、Search・YouTube・Discoverの広告に「How this ad was made」パネルをMy Ad Center内でグローバル提供すると発表し、他社ツールで作成した場合は広告主が自己申告するコントロールを新設しました。
国内でも「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」が2026年3月31日に公表されています。
どの素材をAIで作ったかを社内で記録できていない状態は、開示以前の問題です。
(出典:EU AI Act第50条および欧州委員会が2026年7月20日に採択した同条ガイドライン/Googleの発表、2026年7月9日/総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」令和8年(2026年)3月31日公表)
まとめ
マーケティング業務のどこをAIに任せるかは、ツールの機能一覧ではなく工程の性質で決まります。判断基準は次の3点です。
出力の正しさを人が安く検証できるか
間違いが公開前に止まるか
判断に必要な文脈が社外にないか
この基準に照らすと、広告運用の最適化・素材の量産・定型の顧客対応・社内資料の作成はAIに寄せられ、ブランド表現の最終判断・例外対応・一次情報の取得・企画の差別化は人が握ることになります。
海外向けでは価値観の偏りと市場ごとの効果減衰があるため、線引きはさらに手前に引く必要があります。
進め方は次の3つです。
工程を洗い出して3基準で仕分ける
「AIで作った素材を記録し公開前に人が承認する」流れを一本通す
削減時間を工程単位で測る
中小企業のアイニコグループ(不動産・介護等)はAI活用の集中プロジェクトにより、送迎ルート最適化や問合せ対応のテンプレート化・自動化などで、全10事業部合計・年間2,247時間の業務時間削減を報告しています。
成果を出しているのは、ツールを増やした企業ではなく、業務を分解して集中的に置き換えた企業です。(出典:総務省「情報通信白書」ヒアリング調査)
株式会社Dawinは、北米・東南アジア・欧州など幅広い地域で、海外向けのSNS・インフルエンサー(KOL)マーケティングを強みとする支援を行っています。
現地クリエイターの起用から市場ごとのクリエイティブ制作、広告運用までを一貫して支援でき、AIで量産できる工程と現地の人材が判断すべき工程を切り分けた体制設計を得意としています。
またWeb3関連事業のマーケティングでは国内トップレベルの実績を持っています。
「AIで作った海外向けコンテンツが現地で通用するか判断できない」「広告運用の自動化をどこまで任せてよいか社内で決められない」「海外KOL施策の候補選定から運用までを効率化したい」——そんなご相談を歓迎しています。まずはお気軽にお問い合わせください。
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